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    「よし、それでは預つとかう」

    浴漕は中で二つに仕切られていた。それは一方が村の人の共同湯に、一方がこの温泉の旅館の客がはいりに来る客湯になっていたためで、村の人達の湯が広く何十人もはいれるのに反して、客湯はごく狭くそのかわり白いタイルが張ってあったりした。村の人達の湯にはまた溪ぎわへ出る拱門型に刳くった出口がその厚い壁の横側にあいていて、湯に漬って眺めていると、そのアーチ型の空間を眼の高さにたかまって白い瀬のたぎりが見え、溪ぎわから差し出ている楓かえでの枝が見え、ときには弾丸のように擦過して行く川烏かわうの姿が見えた。

    とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。

    と訊いた。

    「あいつらと来たら、すぐこれ!だからね」

    「それに――」

    と、酒が少し入るとすぐ真赤になる性質の房一は、その紅黒い顔を火照ほてらせ、円い身体を持扱ひかねたやうになつて訊いた。

    「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」

    「――?」

    「なあ、先生」

    「いや、あれは私が勝手に頼んで来てもらつたんですからな、御心配はいりませんよ」

    「あ、お帰んなさい」

    「あなたの追鮎は元気らしいなあ」

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