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「もう河原町へは当分帰る気はないんですかね。貴方にお貸したところをみると」
「買収ですかな」
「はン」
が、房一をよく知つている者にとつてはその低い居場所がよけい注意をひくらしかつた。千光寺の住職は何気なく一座を見廻しているうち、思ひがけない所に房一を見つけ、ちよつと顔色を動かせた。それから、時折房一の視線を捕へて会釈ゑしやくしようとしたが、遠くて駄目だつた。庄谷は逸早く房一の席に気がついたらしい、が、その殆ど白味ばかりのやうな細い眼にちらりと微笑を浮べたきりだつた。
「おつ!こりあいかん」
「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
「うん、今帰るところだ」
「うん」
と、急に練吉が小耳にはさんで云つたのは、多分黙つて他のことを考へていたのだらう。
「おう、これか」
「その姿は見えないのですが……。」
それは、やつぱり何となく「役所」臭かつた。
「おとうちやん、どこへ行くの」