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「いや、そのうち。――ぜひ御相談があるんですが。――そのうち、一度来ていたゞいて。いや、私の方から出かけませう。や、又――」
正文は黙つて聞いていたが、このときふいに今まで前屈みに折りたゝんでいた背をぐつと伸したやうに思はれた。そして、あの噛みつくやうな眼がぎろりと房一を一瞥した。
「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。
夜になるとその谷間は真黒な闇に呑まれてしまう。闇の底をごうごうと溪たにが流れている。私の毎夜下りてゆく浴場はその溪ぎわにあった。
房一が云ひかけると
かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、
「ほゝう!」
尿には蛋白質はなかつた。排便を顕微鏡でのぞいてみた。いる、いる。蛔虫に十二指腸虫の卵がうんとこさ見えた。
「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」
「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」
はじめの中は房一の傍で指南顔に見ていた徳次も、やゝ下手の流の中につゝ立つて、身動きもしない。ほつそりした身体つきの小谷は、いつのまにか対岸に渡つていて、これも深い黙想に似た形に稍首をかしげて凝然ぎようぜんとしている。獲物はちよつと途絶えたが、しばらくすると又掛りはじめた。
だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。
「なんですか、御挨拶まはりですかね、それはどうも御苦労さまですなあ。――まあ、お上り下さい」