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と、云ひながら徳次の肩をつかんで押しもどした。誰もが疲労のための一種煤すゝけじみた鎮静を現していたにもかゝはらず、練吉だけは明かにまだ興奮していた。と云つて悪ければ、恐しく深い印象を与へられたものの如くであつた。そして、一応の取調べを受けに、二人の責任者が参考人として自動車に乗せられ、本署のある町まで同行を求められたときに、練吉は自分も乗う込まうとして加藤巡査にひきとめられた。
ところが、何の気なしにいつものきよろんとした目つきでその方を眺めていた徳次の顔には、その時不意打を喰つたやうな表情が浮かんだ。彼は緊張して眺め、さつと顔を紅らめ、力りきんだやうになり、それから急に下こゞみになつて水洗ひの仕事にかゝつたが、明かに上の空だつた。彼は始終落ちつきなく対岸の路を眺めやつた。そしてやはり、紅らんだり力んだりした。
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
一瞬、まはりの者は皆黙つていた。わけを知らないのは今泉だけらしかつた。その意識のために、今泉はひどく大切な物をとり落したときの呆然とした眼で庄谷を眺めていた。もともとどこか空虚な感じのする彼の顔は、眼がとび出して底まで空つぽになつたやうに見えた。
「そんなことができるもんかねえ」
「君達は一体何者だ!」
「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」
「早く早くつたつて、もうお支度はちやんとできてますわ。あなたが遅くかへつて来といて――」
行列がずつと町外れの立岩のところまで行つて、そこで一休みしてから引返して来た頃には、へたばつた様子は午前のそれよりも一層深刻に現れていた。今は笑はれるのを気にするどころではなかつた。紙製の袍には十分皺がより、おまけに永い間日に照らされたので、そり返つて袖口から中に着こんだ木綿縞を露はし、横腹のあたりが裂け、惨憺たる有様だつた。それにもかゝはらず、疲労のために一隊はかへつて一種の上機嫌を呈していた。それに空はあくまで晴れ、雲切れ一つなく、彼等の歩いている田舎路は右手にきらめく河を見下して、白くはつきりと浮び上り、ふり注ぐ日ざしと温かさで噎むせるほどだつた。誰かが笏を落したと云つては笑ひ、木沓きぐつが割れたと云つては笑ひ、さうなるととめどもないげらげら笑ひが浪のやうにしばらくは一隊を支配した。
「いや、人目がなきあそれどころぢや済まんでせう」
控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、
徳次は答へることができないで、又あの不器用な笑顔をつくつた。それから、船がごとんと岸に突きあたるはずみに、房一の前にとび降りると、突拍子な調子で